地域研究と語学を両輪として


(1) 自分のルートをみつける作業

大学での勉強は、ちょうど地図上に自分のルートを見つけていく作業に似ています。高校までの勉強が、文部科学省によって作成されたコースの上を進むことであったのとは、大きく違うところです。

大学の科目も、全学共通科目、学科科目といった大枠はありますが、その中での選択の幅は実に大きくバラエティに富んでいます。しかも上智大学の場合には、学科、学部を越えた履修もかなり自由にできます。提供科目の多さに、「これならば適当に科目をとっていけば卒業なんかわけないな」と思う新入生がいても不思議ではないほどです。

しかし実際には、木を見て森を見ずの譬えのように、適当に科目をとっていくうちに、自分が歩いている道を見失う学生諸君も少なくありません。高校までのようにお仕着せのコースでないだけに、かえってこうした問題が生じるのです。しかし、学生諸君が自分の関心に、時代や社会の要請を勘案して自らの歩む道を決めて行けるとしたら、これほど有意義で楽しい学生生活はないでしょう。

それにはまず、いま自分は何に関心をもっているのか、真剣に考えてみる必要があります。そしてそれと同時に大学が提供するカリキュラムの編成と内容をざっと知ることから始めなければなりません。そこでここでは、ポルトガル語学科に入学した諸君が在学4年間を見通した場合に歩みうるおよその道程を示しておこうと思います。図1は、これから述べる科目群を図解したものです。


(2) 全学共通と学科科目

ポルトガル語学科に在籍する学生諸君にとって、自分のルートを作るために念頭においておかなければならない科目群が2つあります。「全学共通科目」と「学科科目」です。自分はポルトガル語学科に所属しているのだからといって学科科目だけをとっていても、卒業要件を満たすことはできません。

図1 在学4年間の履修見取り図

全学共通科目はさらに「人間学」、「体育科目」、「情報リテラシー演習」、「外国語科目」、「選択科目」からなります。 「人間学」は、人間の全体像をダイナミックに理解することを狙った科目で、上智大学の教育方針に則ったものです。「外国語科目」については、英語のほかドイツ語、フランス語、イスパニア語、ロシア語、コリア語、中国語、インドネシア語、フィリピン語、アラビア語から選ぶことができます。「情報リテラシー演習」は勉強にPCやネットワークを活用するために、基本操作から始まり、電子メール、www閲覧、文書作成、表計算、図書検索、マナーと倫理などを学ぶ科目です。

学科科目は「外国語学部基礎科目」「主専攻科目」「副専攻科目」からなります。このうち「外国語学部基礎科目」は本学部6学科共通の科目群で、外国研究に必要なディシプリン (既存の専門学問領域) の基礎的知識の習得を目的としています。

「主専攻科目」は学科生にとって専門科目に当る部分で、地域研究科目と語学科目からなります。それぞれ必修科目と選択科目で構成されています。これに対して「副専攻科目」はアメリカの大学で言うところのメジャー (主専攻) に対するマイナー・コースに当り、 主専攻を補完する科目群です。本学部では、言語学、国際関係、アジア文化の3つのコースからなっており、「副専攻科目その他」の24単位をひとつの副専攻コースに充てて集中的に履修してもよいし、あるいは関心のある科目に分散して履修してもよいことになっています。

副専攻の指導要領にそって履修した学生に対しては、学位とは別に副専攻履修証明が与えられます。またラテンアメリカ専門の学内の研究機関であるイベロアメリカ研究所*が、ラテンアメリカに関する指定科目を履修した学生に、「ラテンアメリカ地域研究履修証明書」を交付しています。

*イベロとは「イベリア半島の」という意味で、イベロアメリカは厳密にはポルトガル、スペイン旧植民地系のアメリカを指しますが、一般にはラテンアメリカとほぼ同義語です。

本学科の主専攻は、「地域研究」と「語学」があたかも車の両輪のように一緒になって主軸となっています。「外国語学部」という学部の名称から「語学」を学べば十分だとの認識をもっている諸君がいるかもしれませんが、ポルトガル語の理解能力を高めるには、その言葉が話されている地域に対する知識と理解が不可欠です。一方、ブラジルやポルトガルなどポルトガル語圏についての地域理解を深めるには、ポルトガル語の能力は必須です。

こうした地域と言語に関する知識をもって、対象とする地域を理解しようとする姿勢こそ、諸君が他の地域、文化、言語に接したときに役立つ普遍的な価値だといってもよいと思います。

これらの科目群を、「卒業に要する科目、単位数の最低基準」にそって履修することにより、ポルトガル語学科の学生諸君は4年次終了時点で「外国研究」の学位が授与され卒業となるのです。もっとも高等教育は学部で終わるわけではなく、その上にはさらに5年間の大学院があります。本学には言語学、国際関係、地域研究の大学院が用意されていますが、外国を含め他大学の大学院で勉学、研究を積む卒業生も少なくありません。


(3) 地域研究:社会科学と人文科学ルート

さて専門教育 (主専攻) の両輪のうち「地域研究」について少しみていきましょう。必修科目としては、ポルトガル語圏全体の基礎知識を与えることを意図した「ポルトガル語圏の世界」と地域研究の手法に力点をおいた「地域研究入門」、それにポルトガル語のテキストを読みながら歴史的視点の習得を重視した「ブラジル史」の3つがあります。

このほかは総て選択科目になりますが、その科目選択に当って重要になるのが、「社会科学」と「人文科学」の2つの用語です。学問のジャンルは「社会科学」、「人文科学」、「自然科学」の3つの学問分野によって大別されますが、本学科の地域研究は、これらの学問ジャンルのうち社会科学系と人文科学系で編成されています。社会科学は、政治学、法学、経済学、社会学、文化人類学、国際関係論などからなる分野で、人文科学は、歴史学、文学、言語学、思想・哲学、宗教学、文化・芸術などの分野で構成されています。学生諸君には、社会科学系か人文科学系か、どちらかの系統に重点をおいて履修計画を立てることが期待されています。


(4) 語学:コミュニケーション能力の育成

もうひとつの専門科目 (主専攻科目) の輪が「語学」です。学科生全員が履修しなければならない必修の語学教育について、本学科ではその目的を、国際社会でポルトガル語を使っての意志疎通が十分に可能な「コミュニケーション能力の育成」においています。

このため1、 2年では基礎ポルトガル語をみっちり勉強し、 2年終了時には「現地での生活に不自由のない程度のコミュニケーション能力をもつと同時に、辞書等を使用して一応の文献が解読できる程度の能力をつけること」を目標としています。このレベルを身につけた学生に対して、3年以降、ブラジルやポルトガルへの留学の機会が与えられるのです。

さらに3、4年の必修語学科目は、「2年終了時の語学力を維持しつつ、実践的な応用能力をつけること」を目標としています。このため相手の言うことを理解し、自分の言いたいことを的確に伝えることを基本内容とする「コミュニケーション」および、自分の考え方を文章化して整理し聴衆の前で表明することを基本内容とする「プレゼンテーション」の2つの科目群によって構成されています。両科目群の具体的な内容は各年、各学期によって異なりますが、会話、作文、読解などの技術を取り込んだ総合的な語学教育を目指しています。

必修語学科目は、このように実践に重きを置いたものとなっていますが、さらにより専門的なポルトガル語や 「語学」としてのポルトガル語の勉強に意欲を燃やす学生諸君のために、選択専門科目を設けています。また「言語学副専攻」科目と有機的に結びつけることによって、より専門性の高い科目群を学生自らつくることができます。

語学教育についてもう1点述べておきたいと思います。それは、ポルトガル語を学ぶことを通じて新しい言語を学ぶテクニックを発見し、それを体得して欲しいということです。本学科を卒業した学生諸君のその後の進路を追跡してみますと、ポルトガル語を直接役立てることの出来る仕事に就く人が全てというわけではありません。しかし卒業生の多くは外国語と関係のある仕事や生活をしているケースがかなり一般的です。

英語圏での仕事はもとより、ポルトガル語と似ているという理由でスペイン語関連の仕事に就いている人も少なくありません。上智の卒業生は語学に強いはずだからと言われて、アジアやヨーロッパ、アフリカの仕事を担当する人もいます。その場合に、ポルトガル語の勉学を通じ、未知の言語を体得するためのテクニックを身につけていれば、どんなに役立つことでしょうか。

「語学に強い」ということは、外国語をなめらかに話せるということでは必ずしもないのです。むしろいかなる未知の言語の世界の中にあっても、その言語の特徴をつかみ、それを使うことによっていち早く仕事や生活に役立てる能力をもつことであると私たちは考えています。すなわち異文化とコミュニケートできる力です。


(5) 国際社会で働く人たちのためのLiberal Arts College

さて最後の方になってしまいましたが、 1、2年に比較的多く履修する「全学共通科目」についてひと言述べておきましょう。この科目は、1992年まで「一般教育科目」と呼ばれていました。一般教育科目を設けるに至った経緯を振り返ってみますと、第2次世界大戦の敗戦と関係しています。すなわち軍人や一部の指導者の狭量な世界観が悲惨な戦争を招いたとの戦後の反省に立って、将来、社会の指導者になる人たちは大学教育の段階で幅広い教養を身につけておく必要がある、ということで設けられたのです。このため自分の専門領域を越えて自然科学、社会科学、人文科学の幅広い分野にわたって基礎的な知識と考え方を学ぶことが求められているのです。

こうした精神は「全学共通科目」と名称が変っても残っています。しかも国際社会で働くことがごく普通のこととなった今日、外国人と交換し合える幅広い教養の有無が仕事を左右する大切な要件です。外国語学部は、国際社会で働く人たちを養成するためのLiberal Arts College (教養学部) との見方があるのも、こうした事情を反映しています。


(6) おわりに

本文の冒頭で大学の勉学とは地図上にルートを見つける作業に似ていると書きました。これまでの説明からそれは決して容易な作業ではないことがわかったと思います。 1度で自分のルートを決められる人はまれです。多くの人は試行錯誤を繰り返しながらルートづくりをしています。とりわけ外国語学部の場合には、経済学や社会学のようなディシプリンがはっきりと形成された分野と違ってまだ新しい学問領域ですから、試行錯誤の度合いは大きいように思われます。ルートづくりには不断の努力が必要です。

こうした過程を経て、4年に学科ないしは副専攻で自分の関心領域の卒業論文をまとめることができれば、大学教育のひとつの到達点に達したということができます。ひとつのテーマについて自分の知識、視点をまとめておくことは、多感な学生時代の「まとめ」として、その後の人生において極めて有意義です。

その関心が、卒業後の進路に結びついていくならば最高です。また仮に大学で勉学したことに直接結びつかない仕事に就いたとしても、在学中に自分なりのルートをみつけるべく努力を重ねた諸君は、仕事の上でもそのルート探索の経験が活かされるものと、私たちは信じて疑いません。

(堀坂 浩太郎)