第4章 論文・口頭発表の方法


 大学で学んだことは、論文もしくは口頭発表などの形を得てはじめて学問的成果と呼ぶことができます。正しい発表形式を与えられた研究成果は、そのジャンルの知的達成の一部として、同じテーマに関心を持つ多くの人々に共有されることになるでしょう。

 皆さんも、論文は小さなものは授業のレポートから大きなものは卒業論文まで、口頭発表も様々な場面で行なう機会があるはずです。以下のパートでは、論文作成や口頭発表を行なう際の手順やコツをまとめてみようと思います。

論文作成
口頭発表
インターネットの使用例


[論文作成]


1.研究の計画を立てよう

 まずは、論文・口頭発表に共通する、研究の手順についてお話しましょう。

(1)連動する「大テーマ」と「小テーマ」を見つけよう
 学問研究、とりわけ人文科学系の学問というのは、本来その究極の目標としては考えうる限り最大・最重要の問題意識を持っていてしかるべきです。すなわち、「人間とは何か」、「世界平和はいかにして実現するか」、「コミュニケーションはいかにして成立するか」、「ヨーロッパ文明の本質とは? 」等々。そういう問題をそのままタイトルにして、いつの日か『平和論』、『文明の本質』というような書物を書こうという大望をいだくのは、それはそれで大変素晴らしいことだと思います。上智大学が目指す「ソフィア(叡智)」とはまさに、そういう事柄に関わるものでしょう。
 けれども、大目標を達成するためには、それ相応の準備をしなければなりません。随筆ならば、どんな大きなテーマについてでも、(優れた着想さえあれば)特別な準備なしにでも書けるかもしれませんが、説得力のある学術論文を書こうという時は、そうもいきません。まして、実際に論文を作成する作業というのは、時間と能力、それに情報の点でさまざまな制約があります。そこで、上記のような大きなテーマを追求するために、より小さな、具体的なテーマを設定する必要が出てきます。例えば、高遠なテーマをはるかに見据えつつも、現在の知識と能力に応じた「問いの立て方」が重要になってくるのです。「大テーマ」だけでは限られた時間内に研究をまとめることは至難になりますし、「小テーマ」だけではただの「オタク」の知識自慢に終わるかもしれません。大テーマと小テーマを連動させ、「小さな窓から大きな世界が見える」ような研究計画を作れれば、あなたの作業は一歩大きく成功に近づいたと言えるでしょう。

例:   (大テーマ)           (小テーマ)
    「日独戦後史比較」    「憲法(基本法)改正に関する論争史」
    「民主主義とは何か」   「18世紀啓蒙時代の秘密結社研究」
    「現代メディアの諸特徴」 「写真誕生当時のヨーロッパ人の言説」
    「近代人の生命観」    「臓器移植関連法に関する各国の比較」

 実際に論文を書いたり口頭発表をしたりする時は、小テーマの方がそのタイトルになることが普通です。皆さんも、大テーマと小テーマの組み合わせをいろいろ考えてみてください。実は、この「テーマの立て方」こそが、学術的な研究を行なう際の最難所であり、最重要キーポイントであると言えます。しっかりした問いが立てられれば、もうそれだけで仕事の大きなヤマを越したとさえ言えるでしょう。

(2)「問い」を立てよう
 テーマが決まったら、次は「問い」を立てる必要があります。テーマから問いが生まれなくては、あなたの研究の焦点になっている話題が何なのかがぼやけてしまいます。言いかえれば「問い」とは、あなたの論文を読んだり、口頭発表を聞いたりした人には何が得られるのか、ということにも関わってきます。
 そういう問いを立てるには、あなたが研究しようとしているテーマもしくはジャンルについて「過去にどのような先行研究が行なわれてきたか」ということをしっかりと知る必要があります。論文や発表の中で提示されるべき「問い」とは、それぞれのテーマについての「研究史」の中ではじめて立てられるものなのです。まず、参考文献に一通り目を通しましょう。先行する研究の論文等をある程度読みこんでいけば、他の研究者たちが「ここから先はまだ分からない」としている部分が見えてくることがあります。そういう時は、その「分からない」部分についての問いをストレートに立ててみてもいいでしょう。そして、あなたが集めることのできる資料によって、その問いに答えることができそうかどうかを検討してみましょう。あるいは、「現在は定説とされていること」が、何らかの意味で疑わしい、あるいは不十分だと思えることもあるかもしれません。その場合は、なぜその「定説」が疑わしく感じられるのかをできるだけ詳細にチェックし、「別の説」が成立する可能性はないのかどうかを考えてみましょう。
 すなわち、ここで立てるべき「問い」とは、「今だ答えられていない問いに応えを出す」もしくは「これまで"正しい"とされてきたことに疑義を提出し、新しい考え方を示す」ことに直結しているべきなのです。こういう問いを立てることなしに、ただ漠然と何かについて調べただけでは、学問(学び、問う)とは言えません。

2.論文作成の手順
 研究上の「問い」を立てることができたら、いよいよ論文作成に取りかかりましょう。以下に、その典型的な手順を示してみます。

(1)問いを提示する
 まず論文の冒頭でするべきことは、そこで扱われる問いをはっきりと示すことです。この際、その問いが"小テーマ"に対して持ちうる意義、さらに、"大テーマ"にどうつながっていくかを述べていることで、読者はあなたの論文が持っている意義を理解するはずです。

(2)研究史を紹介する
 「研究史」とは、あなたが立てた問いやそれに関連する問いに対して、過去の研究者たちがどのような答えを与えてきたかの歴史です。詳しくこれを叙述するときりがなくなりますが、できるだけ簡潔に、それでいて重要な先行研究には触れるようにしながら、あなたの「問い」の持つ意義を読者が理解することを目的として論述してみましょう。それぞれの先行研究の「成果」とその"限界"を述べるように試みていけばよろしいでしょう。

(3)問いに答える
 いよいよ本編として、あなたなりの「答え」を述べる作業です。もっぱら緻密な論理展開によってこれを行なう場合もあるでしょうが、問いの性質に応じて、あなたの答えをサポートする材料を効果的に配しながら論を展開しましょう。そのような"材料"としては、1.あなた自身がフィールドワーク等によって収集したデータ、2.資料・参考文献からの引用、3.実験結果、など様々なものが考えられます。

(4)論をまとめる
 十分に論述を尽くしたら、最後に、それまで述べてきたことをまとめます。どのような道筋で論述を進めてきたか、どのような見解がしりぞけられ、どのような結論にいたったのかを、できるだけ簡潔にまとめましょう。忙しい読者がこの結論部だけ読んでも、あなたの主張の最重要点は分かるようにしておけば、論文の利用価値は高まります。

(5)注をつける
 「注」も、論文のきわめて重要な一部です。本文の文脈には入りきらない重要な情報や見解はもちろんのこと、本文中で紹介した資料やデータ、引用の出典は、できるかぎり詳細に注をつけるようにしましょう。関連する本文と同じページに"脚注"としてつけてもよいし、論文の最後に注をまとめて記してもよいでしょう。他の研究者と共同で「論文集」などを作るときは、各論文の注のつけ方が統一されているほうが読者には親切です。
 引用やデータの出典を注で示す場合、日本語文と欧文では多少書き方が異なります。

日本語の場合:著者(編者、訳者)名、書名、出版社名、出版年、引用頁を記します。

例) 3. ゲーテ:『ファウスト 第一部』(池内紀訳 集英社)1999年、132頁

ドイツ語の場合:通常は、出版社ではなく、出版された都市名を記すところが日本語との違いです。

例) 1. Ludwig Wittgenstein: Werkausgabe. Frankfurt am Main 1992 (=WA.) Bd.8 S.544
 *これは、注番号「1」の箇所が、フランクルフルト・アム・マインで1992年に出版されたヴィトゲンシュタインの著作集(Werkausgabe)の第8巻544頁から取ったもので、以後の注ではこの著作中を「WA」という略号で示す、ということを言い表しています。

(6)参考文献表をつける
 あなたが論文作成に使用した書物、文献は、論文の最後に表にまとめて、できるだけ詳しく紹介しましょう。きちんとした文献表を掲載すれば、あなたの論文に対する信頼度が高まりますし、同じジャンルの研究をする人には大いに参考になるでしょう。

(7)レジュメをつける
 レジュメとは、論文の内容を1〜3ページ程度にまとめたものです。長めの論文を書いたときは、提出先からこのレジュメを添付するように要求される場合が少なからずあります。また、ドイツ語圏についての論文を日本語で書いた場合、巻末にドイツ語のレジュメをつけておけば、ドイツ語しか読めない人でもあなたの論文のあらましを理解することができるというメリットがあります。卒業論文クラスの規模の日本語論文の場合、欧文のレジュメを添付することを強くお勧めします。



[口頭発表]


 論文・レポートは文字による研究発表ですが、口頭発表は「声」による発表です。そこにはやはり、口頭発表に特有の手順というものがあります。

(1)テーマと構成を明言しよう
 論文なら、分かりづらいところは読み返したりすればよいのですが、口頭発表はそうはいきません。聴衆に分かりやすいように、自分の発表がどんなテーマを扱うものなのか、話の流れはどうなっているのか、発表の最初に明らかにしておきましょう。「本日、私は皆様に……についてお話したいと思います」、「まず始めに……について、次に……について、最後に……について述べまして、結論といたしたいと考えています」、「それではまず最初の点、……ついて」、「続いて、第2の点に入ります」、「第3の点に入らせていただきます」、「それでは、これまで申し上げたことをまとめてみます」、「結論として、以下のことが申し上げられると思います」

(2)ハンドアウトを作ろう
 「ハンドアウト」とは、発表の内容の梗概や引用する文章などをまとめた印刷物のことです。特殊な場合を除いて、学問上の口頭発表ではこのハンドアウトを製作・配布する必要があります。以下に、ハンドアウトを作る目的と作り方の要点をまとめてみます。

発表の手順を示す:発表の冒頭に、話の手順を明言しておくべきことは先述の通りですが、さらに印刷物の形で手もとにそれが示されていると、聴衆はあなたが話している事柄が発表全体の中ではどういう位置にあるのかを理解することができます。多少込み入った話題や、ユニークな説を展開しようとする場合でも、全体の流れを意識しながら話を聞くことができれば、理解ははるかに容易となります。小見出しに番号をつけたような箇条書きだけでもいいですし、さらにある程度内容をまとめた文章を加えるのも理解の助けになるでしょう。

引用文を掲載する:発表は、しばしば参考文献からの引用をともないます。難解な文章や外国語などは、一度耳で聞いただけではなかなか理解できないことも多いですから、ハンドアウトに文字として記載することが望まれます。外国語の場合、できれば

参考文献リストを掲載する:あなたが発表するために用いた文献や資料の一覧(もしくはその一部)を、ハンドアウトに載せておきましょう。発表の内容本体だけでなく、テーマに関連する文献を示すだけでも、同じテーマや似たようなテーマについて研究している人には大いに役立つはずです。

発表場所のデータ等も記す:発表のタイトルや、発表者としての皆さんの氏名を記すことは当然ですが、「いつ、どういう機会に行なった発表なのか」も記しておきましょう。例:「2002年6月29日 上智大学 木曜5時限 ○○研究会発表」

(3)質疑応答を喚起しよう
 口頭発表は、ちょっとプレッシャーのかかる作業ですが、自分が研究してきたことに対し、聴衆からじかに反応を得られるという点で、非常に価値のある機会です。難しい質問をされて、壇上で立ち往生してしまうという恐怖感もありますが、厳しい質問を受けてもそれはそれで貴重な勉強です。勇気を出して、聴衆との質疑応答が出やすい発表を心がけましょう。活発な議論を引き起こす発表こそ優れた発表であるとも言えるのですから。
 生き生きとした質疑応答を引き起こすためには、以下のような方法が考えられます。
・ 「どこまでは分っていて、どこからは分っていないのか、またどういうことは曖昧なのか」をはっきりと明言する。
・ 発表の結論が、新たな問いの提出になっているように構成する。
・ 「この件に関しては、のちほどぜひ皆様のご意見をお聞きしたいと思います」などと、言い添えておく。




[インターネットの使用例]

 インターネットの普及のおかげで、ドイツ語圏研究はずいぶん様変りしました。なにしろ、つい10数年前までは、ドイツの新聞や雑誌は最低でも半月くらいは遅れてようやく洋書店に到着するのが普通でしたが、現在ではさまざまな雑誌や新聞のリアルタイムの記事、さらには各種データソースがネット上で検索できるのです。ドイツ語・ドイツ語圏のことを勉強していながら、これを大いに利用しないという人は、知的に怠惰だと言われても仕方がないでしょう。以下に、ドイツ語地域研究に役立つインターネットの使用例を示してみます。なお、以下に紹介しているサイトはあくまでも「例」です。もう少し本格的なウェブサイト案内は、下記アドレスから「ドイツ語の学べるウェブサイト・リンク集」を開いてみて下さい。
http://www2u.biglobe.ne.jp/~kumekawa/sophia.htm

(1)ニュースを検索する
 インターネットの魅力は、やはり遠隔地の新しいニュースが様々な媒体ですぐ読めるということです。「Paperball」という検索ページに行くと、それぞれのキーワードについてドイツ国内のあらゆる新聞サイトを対象に検索できます。
http://paperball.fireball.de/

(2)データを収集する
 政府機関等のホームページからは、様々なデータを得ることができます。
http://www.bundespraesident.de/portal.html     (ドイツ連邦共和国大統領)
http://www.bundesregierung.de/            (ドイツ連邦共和国政府)
http://www.admin.ch/                  (スイス連邦政府)
http://www.bmaa.gv.at/                 (オーストリア外務省)
http://www.germanembassy-japan.org/        (ドイツ大使館)
http://www.austria.or.jp/                (オーストリア大使館)
http://www.luxembourg.or.jp/             (ルクセンブルク大使館)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/             (日本の外務省)

(3)ドイツ語を学ぶ(聞く)
 ドイツのテレビやラジオも一部視聴することができます。
http://dw-world.de/                (ドイチェ・ヴェレ)
http://www.tagesschau.de/            (ニュース番組Tagesschau)
http://www.zdf.de/hp/hp_v2/index.html     (ZD)

(4)文学を読む
 古典文学の類は、著作権の問題がないため、ネット上でもかなり読むことができます。
http://www.gutenberg2000.de/     (プロジェクト・グーテンベルク)

(5)大学について調べる
 留学先を探す時も、インターネットは強い見方です。
http://www.hochschulkompass.hrk.de/     (ドイツ全土の大学が項目別に検索できる)
http://www.daad.de/                (DAAD=Deutscher Akademischer Austauschdienst)


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