本 冊 子 を 利 用 し て い た だ く に あ た っ て
「地域研究」とひとくちに言いますが、そういう名前の学問の方法があるわけではありません。ひとつの言語圏や文化圏、民族圏を総合的に知ろうというのが「地域研究」という営みの目標です(地域研究という言葉がどのように生まれ、使われてきたかは9頁以下をご覧ください)。ドイツ語圏、さらにはヨーロッパという複雑な歴史と文化をもった地域を「総合的に」研究するというのですから、その目的も方法もきわめて多岐にわたることになります。「地域研究」とは、ひとつの学問の名前ではなく、ある地域に関する諸々の学問の成果を総合する作業であると言えましょう。
 かつては、日本の外国研究は細かく専門に分化していました。明治以来、日本人が「横文字を読む」という作業は、ヨーロッパの進んだ文物を取り入れて日本の国を少しでも速く近代化させる、という使命を帯びていたからです。「富国強兵」に役に立つ、法学、経済学、医学、工業技術、軍事などの知識を仕入れることができれば、「ドイツ語圏についての知識を総合する」ことは二の次だったのです。けれども、外国研究のそういう「縦割り」が、国際社会に対する洞察力を鈍らせました(明治初期、勝海舟や福沢諭吉の世代には、まだ"西洋"を総合的に捕らえようという意志がありました)。その結果日本は、世界大戦前は軍事において、戦後は経済において大きな存在となったものの、国際社会における未来のビジョンを提出できるような成員たることはできずにいます。そういう意味では、世界全体が21世紀を生き抜く指針を模索している現在、「地域研究」という学問の総合作業はかつてない重要性を帯びつつあると言うことができるでしょう。
 上智大学のドイツ語学科の教員たちも、むろん全員「ドイツ語圏の専門家」ですが、学問のディシプリン(専門)はそれぞれ違います。言語学、歴史学、政治学、文学、社会研究、現代文化研究など、さまざまな専門を持った研究者が集まっています。皆さんは、そういうスタッフを上手く「利用」しながら、自分の関心に応じたドイツ語圏研究を始めていっていただきたいのです。
 本冊子は、ドイツ語に関心を抱いて大学での勉強を始めた皆さんが、地域研究の世界へと踏み込んでいく入り口をいろいろな形で見つけられるように工夫して作られています。ただ、その分、構成が複雑になっていて、「かえってとっつきにくい」と感じる人もいるかもしれません。そこで右頁に、目的・関心に応じて開いていただきたい章や節を示しておきたいと思います。
各 章 と そ の 狙 い
第1章 語学と地域研究
  • 語学修得と地域研究の関連を、上智大学ドイツ語学科のカリキュラムを紹介しながら説明します。
  • 統一されたEUの中で、ドイツ語圏はどのような位置を占めるのかを概説します。
第2章 学問の方法
  • ドイツ語学科のそれぞれの先生が、どのような目的と方法で研究をしているのかを、インタビュー、エッセイ織り交ぜながら紹介します(先生によって、ページの構成がかなり独自のものになっていますが、あえて雑多な形式で掲載することで、「個性」を味わっていただくことにしました)。
第3章 データファイル
  • ドイツ語圏の地理・統計に関する基礎データをまとめました。
  • ドイツ語圏についての情報を集めるための、諸機関、基礎文献を紹介しました。
第4章 レポート・論文・口頭発表
  • 研究した結果は、きちんとした形で発表されてこそ「学問的成果」と言えます。論文を作成したり、口頭発表を行う際の、作業過程のヒントや最低限の約束事を紹介しました。
第5章 留学と検定試験
  • 地域研究は留学しなければできないわけではありませんが、「現地」の土を踏むのはやはり重要な経験です。留学の方法の選択肢や要求される資格などについて説明します。
  • 留学した先輩たちの体験記も掲載しました。
第6章 大学院進学
  • 学部での勉強の後も研究を続け、より専門的な道に進んでいきたい人には、大学院進学も考えられます。大学院とはそもそもどのようなところなのかの概略を説明します。
  • 進学した先輩たちの体験記も掲載しました。
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