(5) 日本における地域研究の現状
日本における地域研究の現状はどうであろうか。わが国の国際的な地位の向上からいっても、また上述の欧米諸国の現状に比べても、わが国における地域研究の現状はかなり立ち遅れているといわねばならないだろう。その原因としてはいくつか考えられる。
第1に、わが国における外国研究が従来、外国語に重点を置きすぎてきたきらいがあることである。これは欧米諸国との文化的相違や、日本人が概して外国語が不得手だという特殊事情からいって、ある程度やむをえない面もあったが、その後のわが国の国際化の進展を考えると、従来のやり方を再検討すべき時期に来ているように思われる。その典型的なケースは、外国語大学と種々の大学の外国語学部である。
第2に、わが国の大学がタテ割り社会で、学部の壁が厚いことである。こういう状態では、学部問(inter−departmental)の協力を前提とした地域研究は仲々育ちにくいわけである。従って、欧米諸国のような学際的な地域センターはわが国ではまだ数が少なく、東京大学の東洋文化研究所や京都大学の東南アジア研究センター、上智大学のイベロアメリカ研究所、慶應大学の地域研究センターなどが目立っているにすぎない。
第3に、政府や財界などの地域研究に対する認識がまだ十分でなく、欧米諸国に比べて、地域研究への援助の取り組み方が遅れていることである。もちろん、 政府は早くから地域研究の必要性を感じ、1960年のアジア経済研究所の設立に続いて、1966年には貿易研修センターを発足させた。しかし、政府は日本全体として地域研究の体制をどうするかというビジョンを示したことはないし、この点では国際教養人の育成をしきりに強調する財界も同じである。研修センターはやたらと多いが、地域研究センターを設立ないしは援助しようという動きはあまりみられなかったのである。
こうした中で、1970年代に入り注目されたのは、東京外国語大学や筑波大学などにおける地域研究の大学院の設置である。とりわけ1975年4月に発足した筑波大学の地域研究科は、学部(学系)の枠を越えた「独立大学院」として注目を集めた。同研究科は、北アメリカ、ラテンアメリカ、東アジア、東南アジア、欧州、日本の6コースに分かれ、学生は6コースの地域研究科目群(コア科目1群)と研究方法に関する科目群(他の修士・博士課程の提供科目を含む)をからませて、主体的に主専攻、副専攻を選ぶことになっている。
もうひとつは、財団法人大学基準協会が外国語学部に関する独自の基準を設定したことである。従来、外国語学部は文学部に関する大学設置基準に基づいて設置されてきたが、同協会の新基準によると、外国語学部は「世界各国の言語に関する理論と実際ならびに関係地域、国際関係等関連分野に関する理論と実際を教授研究し、国際的に活躍しうる人材を育成するとともに、国際文化の向上発展に寄与することを目的とし、「各国の言語ないしは言語群、もしくは地域的に区分した学科をもって組織する」としている。そして教授科目については、専攻科目として専攻外国語と関係地域研究を、また共通科目として国際関係論等の関連科目を履修させるとしているが、これは外国語学部の目的を初めて明確化したものとして注目される。
そして1980年代に入り目立ったのは、冒頭にも述べたように、国際関係学部や国際文化学部を新設する大学が増加したことである。これは多分に日本の国際化という時流に乗ったものといえるが、その一方、外国語大学ないしは外国語学科がすでに時代の要請に応じられなくなったことを示しているようにも思われる。
この意味では、外国語学部は地域研究を担う学部として、その名称変更を含めて重大な岐路に立たされているといえよう。
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