社会(1)

Interview mit クリスティアーネ・ランガー=カネコ先生

――先生が今研究なさっているテーマはどのようなものですか?
ランガー:「東西ドイツ統一以来、私が取り組んでいるのは、非常に広い意味での同時代史的な社会研究です。とりわけ、心理学的な観点からこれを行なっています。エーリッヒ・フロムの分析的社会心理学の方法、これは、社会のソシオ・エコノミックス(社会経済学)的な構造とその社会の『性格』との関係を解明しようとするものですが、この方法論にもとづいて、東西ドイツの社会性格の構造を異なるソシオ・エコノミックス的諸関係の帰結として調査しているのです。」

――統一当時は歓喜の声がいたるところで聞かれましたが、40年間二つに分かれていた国が再統一されたのですから、やはり想像を絶する難事業であるわけですね。
ランガー:「国内に二つの世界ができたんです。同じ『ドイツ人』の出会いのはずが、見知らぬ人間同士のぶつかり合いになってしまいました。旧東ドイツ人たちは様々な未知の状況下で不安を募らせていきました。共産主義体制がなくなり、かつてのような上からの指導や命令がなくなった一方、社会保障もなくなり、失業率は増大しました。青年層や婦人の精神的、社会的な不安が深刻化し、若者の暴力と犯罪が増加しました。統一後のドイツでは、東西のドイツ人の心が離れ離れになり、新しい溝と壁が心の中に生じたと言われていました。」

――東西ドイツ統一後10年の間に、ドイツがどのような「性格」を持った社会を作り出したのかというのは、非常に興味深い、また重要な問題ですね。
ランガー:「よく知られていることですが、社会の性格というのは、諸条件が変化した場合もしばらくの間は保持されて、やがて次第に新しい状況に適合していく、という形で現れます。そういうプロセスが、統一後のドイツでもはっきりと見て取れます。年月の経過とともに、当初感じられていた障壁や違和感はだんだん克服されてきてはいます。」

――ドイツの場合、国内の統一という問題と平行して、EUの統合が「社会の性格」に与える影響も大きいのではないでしょうか。
ランガー:「そうですね。最近起こった一連の国際政治的な大事件の影響で、人々の関心は国際政治上のグローバルな問題に移ってきました。90年代を通じてドイツが取り組まざるをえなかった国内の社会問題は、21世紀に入ってからは、まるで自ずから解決したかのような印象さえ与えます。」

――いわゆる「グローバル化」の進行と、それへの抵抗であるかのようにして起こった2001年9月11日のテロも、21世紀の「国家」のイメージを考える際に重要な要素でしょうね。
ランガー:「現在の国際社会の情勢を鑑みますと、民族や宗教間の和解というテーマが、ますます重要性をもって浮かび上がってきていますね。反発や憎しみ、攻撃、破壊、不安と不寛容によって起こる反動によってのみ、問題や対立を抑えこむことができるという考えは、次第に新しい思想へと席を譲ろうとしています。つまり、対立を解こうという共通の努力こそが、戦争や苦しみを終わらせることができ、より正当な、あらゆる人々の尊厳に敬意を払う世界秩序を築くことができる、という思想です。全人類のグローバルな連帯に対する予感は、すでに確実に育ってきていると思います。」

――授業では、先生はどのようなことをなさるのですか?
ランガー:「私の授業では、特に心理学的な観点から、人間の行動や人間関係の根底に働く諸作用のメカニズムを解明することを目指します。また、そのメカニズムが各国の社会や歴史にどう働きかけるのかを探求したいと思います。その際、参加者の皆さんは、諸現象の『背景』を意識するようになること、そしてそれについて考察を行なうことがいかに重要であるかを理解するでしょう。また、その過程で獲得した認識を、ドイツの例に応用することも学びます。そうすることで、自国に対しても新しい視点を獲得し、距離を持った客観的な態度で反省・考察を行うことができるようになるでしょう。」

――前提として要求される基礎知識のようなものはありますか?
ランガー:「ドイツを国際社会の一構成員として見る視点を持っていてほしいですね。また、第二次世界大戦後、BRD(ドイツ連邦共和国)とDDR(ドイツ民主共和国)が、政治的、社会的、経済的、文化的な面でそれぞれどのような道をたどってきたのかをある程度理解しておいていただきたいと思います。東西ドイツが共通の過去に対してどのような態度を取ってきたのか、また、統一後のドイツがDDRという過去に対してどう取り組んでいるのかも、基礎的なことは知っておいていただきたい。さらに、ドイツ統一にいたるにはどのような社会的背景があったのか、また、統一後はどのような問題が生じ、今なお続いているのか、そして問題を解決するためにどのような試みがなされてきたのか、ということについても、ある程度の知識を持っていてほしいと思います。」

――先生が参加を望まれるのは、どのような関心を抱いている学生ですか?
ランガー:「国際政治上の出来事に強い関心がある一方で、人間の様々な関係の背後にあるものを、心理学的な観点から観察する態度を持っている方に参加していただきたいですね。それはつまり、他者、すなわち異質な存在に対して、オープンな態度を取りうるということ、また、新しい経験に対して偏見や不安を持たずに接する勇気があるということ、さらに、自らを新たな考察の対象としうるということです。やがて、他者が自分とまったく変わらないという洞察に達するかもしれません。そして、人種や民族を超えた根本において共通の、人間の本質と呼ぶべきものを発見するかもしれません。皆さんが、全ての人間の平等と尊厳について、普遍的な権利について、諸民族間の『差異』と『類似』と『共通性』について認識するなら、すべての人間の本来的な連帯の予感をさらに発展させてゆくことができるのではないかと思います。」


::::: 参考文献 :::::
Richard von Weizsäcker: Vier Zeiten. Erinnerungen (Berlin 1997)
Marcel Reich-Ranicki: Mein Leben (Stuttgart 1999)
Günter de Bruyn: Deutsche Zustände (Frankfurt 1999)
Günter Grass: Mein Jahrhundert (Steidl 1999)
Günter Grass: Im Krebsgang. Eine Novelle (Steidl 2002)
Bernhard Schlink: Der Vorleser (Zürich 1997)
Erich Fromm: Haben oder Sein. Die seelischen Grundlagen einer neuen Gesellschaft. Sonderausgabe (Stuttgart 2001)
Erich Fromm: Die Kunst des Lebens. Zwischen Haben und Sein (Freiburg 2001)
Erich Fromm: Die Seele des Menschen. Ihre Fähigkeit zum Guten und zum Bosen (Stuttgart 2001)




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