は じ め に
 上智大学の外国語学部は、「言語習得」、「地域研究」、「国際関係研究」を活動の3本の柱としています。しかし、この3分野は、それぞれ完全に独立して存在するものではありません。
外国語の高度な運用能力を獲得することは、「外国語学部」に入学する皆さんにとっては、もちろん当面最大の目標でしょう。けれども、無色透明な「言語運用能力」というものはありません。言語は文化の精髄であり、それが使用される言語圏における歴史、政治、思想、習慣、およそありとあらゆる分野と密接に結びついているのです。ひとつの言語を深く知るということは、その言語を話す人たちが形作る社会を多角的に知る、ということです。そして、ひとつの社会のあり方を考えようとするなら、その社会の「外部」との関係についても洞察を持たなければならないのは言うまでもありません。外国語学部で学ぶべき内容というのは、非常に広範にわたっているのです。
 ところで、ドイツ語学科に入学する学生さんたちの中には、毎年、「ドイツ語は勉強したいけれど、詩や小説を読むのはそんなに好きじゃないし……」というような動機で受験したという人たちも少なからず見うけられます。もちろん、「初心」としての語学に対する素朴な関心、外国語を学ぶ純粋な喜びは、とても大切なものです。ただ、やがてそういう学生さんたちの多くは、国内外のどこの大学に行っても「"ドイツ語"という専攻はない」ということについてあらためて考えなくてはならなくなるようです。とりわけ、留学先で「専攻は?」と聞かれ、「Deutsch」と答えると、「それは専攻じゃないよ」と苦笑される、そんな経験をして、ちょっぴり傷ついて帰国するような人たちも少なくありません。また、留学はしなくとも、3,4年生になって学生生活のゴールが見えてきた時、「私が大学で学んだことはなんだったのだろう」と悩む人もいるようです。
 大学は本来、高等教育機関であり、研究機関です。大学を卒業する人は、日常的な生活感覚やつねに流動的な世の風潮だけに流されず、大所高所から社会の運営を考える能力を身につけていることが期待されます。とりわけ、変動が激しく、国際化・グローバル化が進み、諸メディアの構造も複雑化した現代にあっては、外国語についての深い知識を持ち、世界の動きを視野に入れた、ある意味で「戦略的」に思考できる能力も強く求められています。
 本冊子は、主として外国語学部ドイツ語学科の皆さんが、「語学修得」という港から「地域研究」の海へと船出する際の助けになるようにと編まれたものです。それぞれの関心に応じて、produktivに使っていただければ幸いです。
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