第 1 章  語 学 と 地 域 研 究
T. 語学と地域研究を両輪として
1. 自分のルートを見つける作業

 大学での勉強は、ちょうど地図上に自分のルートをみつけていくような作業といってよいであろう。高校までの勉学が、文部省によって作成されたコースの上を走っていくことにあったのとは、大きく異なっている。
 大学の科目も、文部省や大学によって大枠は決められている。しかしその中での選択の幅は実にバラエティに富んだものである。このことは『履修要覧』を開いてみれば一目瞭然だ。しかも上智大学の場合には、学科、学部を越えた履修もかなりの程度許されているから、提供科目の豊富さに、「これならば適当に科目を選択していけば卒業はわけないな」と思っても不思議ではない。先輩の中には、いわゆる「楽勝コース」を得々として伝授してくれる親切(?)な者も少なくないのである。
 しかし実際には、木を見て森を見ずの警えのように、適当に科目を選択するうちに、自分が歩いている道を見失う学生諸君も少なくない。高校までのように文部省や大学によるコースの完全なお仕着せがないだけに、かえってこうした問題が起こるのだが、学生諸君が上で述べた選択の幅を活かして、自分の人生設計と関連して興味を抱くことに、時代や社会の要請を勘案しつつ自ら歩く道を決めていくのが、大学教育の本領である。
 それには、いま自分は何に興味を持っているのかを真剣に考えてみることと同時に、大学が提供しているカリキュラムの編成を知ることから始めなければならない。そこでこの節ではまず、ドイツ語学科に入学した諸君が歩み得る道程を考えてみよう。もちろんここで解説するのはあくまでもその大雑把なルートであって、旅行ガイドブックともいうべき『履修要覧』を手にして4年間の旅路に出発するのは諸君自身である。

2. 社会科学ルートと人文科学ルート

 ドイツ語学科に登録している学生諸君にとって、自分のルートを作るために念頭においておかなければならない大きな4つのブロックが、「全学共通科目」「学部基礎科目」「主専攻科目」「副専攻科目」である。自分はドイツ語学科に所属しているからといって、学科の科目(主専攻科目)だけでは事足りない。
 図1は、「全学共通科目」、「学部基礎科目」、「主専攻科目」、「副専攻科目」の関係を分かり易く図示したものである。この図をみながら各科目の特徴を把えてみよう。

 図1. 全学共通科目・学部基礎科目・主専攻科目・副専攻科目の関係

 まず「全学共通科目」からはじめよう。これら科目の多くは、かつて「一般教育科目」と呼ばれていた。その呼び名が示すこれら科目は、一部の指導者の狭量な世界観が悲惨な第2次世界大戦を招いたとの反省から設けられたという歴史的な事実を覚えておいて欲しい。すなわち、将来社会の指導者になる人達は、大学教育の段階で幅広い教養を身に付けておかなければ、社会の行く末を誤らせることになるとの考え方が、戦後、大学教育にかつての「一般教育科目」が設けられるに至った理由である。
 さらに国際舞台で働くことが普通となった今日では、外国人と交換し合える幅広い教養の有無がその人物の活動を左右する大切な要件となっている。外国語学部は、国際社会で働く人達を養成するための"Liberal Arts College" (教養学部)との見方が最近出ているのも、こうした事情を反映している。
 全学共通科目に関してドイツ語学科では、「人間学」4単位を必修としている。これは人間とは何かを包括的に理解することに狙いがあり、上智大学の教育の基本方針に削ったものである。
 このほかの全学共通科目の選択ルールについては、『履修要覧』をみてもらうこととし、これとの関連で以下の2つの点を強調しておきたいと思う。
 まず第1に、人文科学、社会科学、自然科学が学問の大分類に当たるということである。諸君は、専門分野として「自分は人文科学重視か、社会科学重視か」をじっくりと考えてもらわなければならないのである。
 外国語学部を選択した以上、諸君は「自然科学」のルートに進むことは出来ないが、「人文科学」ルートおよび「社会科学」ルートのどちらに進むかを考える必要がある。人文科学は、歴史学、文学、言語学、思想、哲学、宗教学、文化・芸術などの分野で構成されている。一方、社会科学は、政治学、法律学、経済学、社会学、文化人類学、国際関係論などからなる分野である。専門の地域研究および副専攻科目も後に述べるように、大きく分ければこのどちらかのルートに入ることになるのである。
 もう一点「全学共通科目」との関連で強調しておきたいのは、『履修要覧』でみて分かるように、人文科学、社会科学どちらの分野にも教養として知っておいて欲しい幅広い問題を扱った科目と、それぞれの学問の基礎科目となるような概論を扱った科目の2通りがあるということである。もし諸君が社会科学のルートを取ろうとするならば、人文科学の科目は幅広い問題を扱った科目を取ればよいであろうが、社会科学については政治学、経済学といった基礎科目となるような概論を履修しておく必要がある。人文科学ルートを取ろうとする諸君には逆のことがいえるわけだ。しかも概論はその後の学習・研究の進み具合を考えると、1,2年次に履修しておく必要がある。また総合科目の中にも重要な科目があることも忘れてはならない。

3. コミュニケーション能力の育成

 つぎに専門科目をみてみよう。ドイツ語学科の主専攻科目はもちろん、「ドイツ語」つまり外国語科目とドイツ語が使われている地域の「地域研究」からなる。いずれも必修科目と選択必修科目もしくは選択科目からなっている。
 ドイツ語学科では、1,2年次の必修科〔での語学教育の目標を、国際社会でドイツ語を使っての意志疎通が十分に可能な「コミュニケーション能力の育成」においている。このため基礎ドイツ語をみっちり勉強し、2年次終了時には「現地での生活に不自由のない程度のコミュニケーション能力をもつと同時に、辞書等を使用して一応の文献が読解できる程度の能力をつけること」を目標としている。その結果、3年次以降の学生諸君はドイツやドイツ語圏諸国への留学の機会を持ちうるわけだ。
 さらに3, 4年次生の選択必修語学科目は、「2年次終了時の語学力を維持向上しつつ、話し、書き、読むという実践的な応用能力をつけること」を目標としている。
 必修及び選択必修語学科目は、このように実践に重きを置いたものとなっているが、語学そのものに興味のある者は、後述するように「言語学副専攻」と組み合わせて行くことも可能だ。
 語学教育の面でもうひとつ述べておかなければならないことは、ドイツ語を学ぶことを通じて、新しい語学を学ぶテクニックを発見し、それを体得して欲しいということである。ドイツ語学科を卒業した学生諸君の進路を追跡してみると、会社に就職した場合は必ずしもドイツ語を直接役立てることの出来る仕事に就くとは限らない。しかしながら、卒業生の大半がいずれは外国語を使う部署に配置されていくといっても過言ではない状況だ。
 英語圏との仕事はもとより、上智の卒業生は語学に強いはずだからといって、アジアやアフリカとの仕事に回されているケースも少なくない。その場合に、もしドイツ語の勉学を通じて未知の言語を体得するためのテクニックを身に付けていれば、どんなに役立つことであろうか。「語学に強い」ということは、ドイツ語をペラペラと話せるということでは必ずしもないのである。むしろ、いかなる未知の言語の世界の中にあっても、その言語の特徴をつかみ、それを使うことによっていち早く仕事に役立てることの出来る能力をもつことであると、私たちは考えている。すなわちコミュニケートできる力である。
 専門教育(主専攻科目)の両輪のもうひとつの輸である「地域研究」については、第1章Uの「地域研究とは何か」を読んで欲しい。ここでは必修科目として「ドイツ研究I」があることを指摘しておきたい。また「地域研究」を推進するために設置されている学部基礎科目については、履修要覧を精読してほしい。
 もうお分かりのように、「全学共通科目」の段階で自分が人文科学と社会科学のどちらにより大きな比重を置くかを考えて科目を履修していれば、地域研究の科目選択に役立つのである。そして例えば、社会科学のうちで、経済に、政治に、あるいは社会にといった具合に絞り込んでいければ、自分の歩むルートは自ずからはっきりとしてくる。
 さらにドイツ語圏の「地域研究」を進めるには「ドイツ語」の能力が不可欠なこと、また「ドイツ語」の理解能力を高めるためには、その言葉が話されている地域に対する理解が不可欠であることを強調しておきたいと思う。  この点は、外国人による日本語および日本研究について考えてみれば、すぐ分かることだ。諸君がもし外国人からアドバイスを求められたとしたら、日本についての関心をもたずして日本語が上手になることはあり得ないと答えるであろうし、日本語を知らずして日本研究を本当に究めることができるとは思わないと強調するであろう。同じことが、私たちの学科の言語と地域研究についてもいえるのである。
 こうした言語と地域への知識をもって、対象とする地域を理解しようとする姿勢こそ、諸君が他の言語、文化に接したときにも役立つ普遍的な姿勢だといってよいと思う。

4. 副専攻科目と地域研究

 以上みてきたように、ドイツ語学科の学生諸君は、「外国語科目」十「地域研究科目」のうちの人文科学系ないし社会科学系のどちらかに比重をおいて履修することになるが、さらに外国語学部では、専門科目の一環として主専攻(メージャー)科目のほかに、「言語学」、「国際関係」、「アジア文化」の副専攻(マイナー)科目を設けている。
 主専攻科目の履修で余力が残り、かつ上記の分野に強い関心をもつ学生のために準備されたコースで、「言語学」が人文科学系、「国際関係」が社会科学系、「アジア文化」はその複合型である。それそれ規定された科目を全部履修すれば、履修証明書が卒業証明書とは別に交付されることになっている。また関心がある科目だけを履修することも可能なので、大いに活用して欲しい。
 スペースの関係で説明できなかった「外国語学部基礎科目」については『履修要覧』の該当ぺ一ジの説明を読んで頂きたい。

5. おわりに

「全学共通科目」から始まって、「主専攻」、「副専攻」と説明してきたが、こうした学習の経過を経るうちに諸君には、自分の関心領域を絞り込んでいってもらいたいのである。そして学科ないしは副専攻で卒論をまとめれば、大学教育のひとつの到達点に達しだということが出来るであろう。あるひとつのテーマについて自分の視点をまとめておくことは、多感な学生時代の「まとめ」として極めて有意義なことといえる。
 そして、その関心が、卒業後の進路に結びついたものであれば、最高といえるであろう。また仮に大学で勉学したことに直接結び付かない仕事に就いたとしても、大学4年間に自分なりのルートをみつけるべく努力を重ねた諸君は、仕事の上でもそのルート探索の経験が活かされるであろう。
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