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第6章 大学院進学について  

 

 大学での勉強を終えた後、大学院に進学する人も、近年少なくありません。とりわけ外国語学部は、入学後にはじめて学び始めた言語で地域研究を行なうため、「4年ではたりない」ということで進学を志すケースも多いようです。

 進学先もさまざまです。何度か申し上げているように、「外国語学」という学問分野があるわけではありませんから、ドイツ語学科の卒業生でも、国際関係や、アジア地域研究、政治学、教育学など、それぞれの研究分野によって、多種多様な大学院に進学しています。上智大学の大学院に進む人ももちろん多いですが、国内外のさまざまな大学に専門研究の場を求めて「散って」いくのも、外国語学部の良き伝統と申せましょう。 
  大学院には、学部が終わってすぐに始めることができる「修士(マスター)過程」と、修士過程の後さらに研究を続ける人のための「博士(ドクター)過程」があります。修士過程は最低2年間かかるのが普通で、修了すれば「修士号」を取得します。博士過程は文科系の場合3年以上在学するのが通常で、博士号の取得を目指します(博士過程を終えたあとさらに何年も研究を続けた後に博士論文を書いて学位を取得することもめずらしくはありません)。 

 以下は、ドイツ語学科で学んだ後、様々な大学院に進んだ先輩たちの進学体験記です。



大学院に進学した先輩たちから


  学部時代から具体的な準備を ・・・   岩坂 将充
  知的交流の楽しみ ・・・  金谷 美紗
  国連職員を目指して ・・・ 阿部 悠貴



  学部時代から具体的な準備を ・・・ 岩坂 将充

 私は現在、地域研究専攻で「トルコ共和国の対EU外交政策」というテーマで研究に取り組んでいます。修士1年次には、トルコ語の習得と資料収集のため、2ヶ月ほどトルコの首都アンカラに滞在していました。
 このような研究活動を行っている大学院への進学動機ですが、私の場合、大学進学の時点で「トルコに関する研究をしたい」と思っていたので、大学院進学は必然的なものでした。つまり、学部では研究に必要な語学(トルコ語やドイツ語)などのツールを学ぶことに重点を置き、大学院で本格的な研究を行おうというプランを学部入学当初から持っていたわけです。
 実際、このような展望は立てにくいかも知れませんが、大学院への進学はできるだけ早い時期に決めてしまったほうがいいと思います。なぜなら、卒業した後の進路が進学か就職かによって、学部4年間の在り方が大きく違ってくるからです。進学を目指す場合は、ゼミや研究会に積極的に参加し、様々な分野の先生方や学生の意見を聞きながら、自分の興味を一定の研究テーマに収斂させていかなければなりません。それらのまとめとして卒業論文の執筆があり、入学試験を経て大学院への進学となるわけです。
 入学試験に関しては、地域研究専攻の場合は、英語・選択外国語・論述・面接による選考となります。ここでは、英語・選択外国語ともに文献を読みこなす力が問われているように思います。英語では出題テーマが限られており、選択外国語も辞書使用が認められているので、語学に関しては過去問を見ておけばある程度の対策は可能でしょう。ただ、論述に関しては、自分の研究対象地域に関する深い理解が求められるので、日頃から幅広い分野に関心を持つことが重要です。また面接では、大学院でどのような事柄をどのような観点から研究したいのかについて、きちんと説明できるようにしておくことも必要だと思います。
 大学院入学後は、学部時代の研究テーマを基礎として、新たなテーマを設定することになります。私の専門領域は「現代トルコ政治・外交」ですが、大学院に入学した当初は、その中でも特に旧ソ連諸国に対する外交政策を研究テーマとしていました。しかし、旧ソ連諸国を対象とする以上はロシア語が必要不可欠であり、修士2年間でそれを習得することは非常に困難であるとの考えから、1年次前期終了後にテーマを「対EU外交政策」に変更しました。なぜEUを選択したのかという理由はいくつかあるのですが、学部時代に学んだドイツ語を十分に活かすことが出来るということもその1つです。テーマの設定は、自分の興味に従うことが極めて重要ですが、自分の能力と相談しなければならないということも忘れてはなりません。そのためにも、学部時代から能力を磨いておくことが大切なのです。
 大学院には、自分の興味や問題意識を徹底的に追究できる環境があると思います。この環境を活かして取り組んでみたいことがあるなら、一歩足を踏み入れてみるのもいいのではないでしょうか。みなさんの希望が、よりよい形で実現されることを祈っています。 

(地域研究専攻博士前期課程1年)



  知的交流の楽しみ ・・・ 金谷 美紗  

 私は大学院で比較政治学を専攻し、イスラエル政治を主な研究対象としています。世界の様々な紛争に関心があったこともあり、国際関係論副専攻の講義で戦争と平和の学問的観方の興味深さを知りました。戦争と平和といえば国際政治学の分野ですが、私の場合は国内の戦争と平和、つまり国内における対立の政治(contentious politics)に関心が向き、政治学を通じてそのメカニズムを解明したいと思ったことが大学院進学を決めた要因です。
 国際関係論専攻の入試科目は英文和訳と国際関係論に関する論述です。一言で言えばたくさんの論文を読むことが重要です。英文和訳は、学術英語を理解しそれをいかに日本語らしい日本語にアウトプットするかがポイントなので、多くの国際政治学、比較政治学の英語論文を読み、時間制限を設けて和訳する練習をしました。論述問題に向けては、特に授業で勉強した国際政治学、比較政治学、経済学の諸理論を復習しマスターすることと、さらに新しい理論的傾向のフォローにも重点を置きました。論述とはテーマに対して論理的に意見を述べることなので、根拠を必ず立てて結論することを心がけました。
 さて入学してみて、大学院は学部時代とは一転してまさにアカデミックな世界というのが強烈な第一印象です。先輩方と教授のハイレベルな知的交流にショックを受けつつも、そのレベルに追いつきたい一心で勉強しました。知的交流に少しでも自分が貢献できた時は楽しいものです。
 私の専攻する比較政治学とは国内政治を比較する学問です。イスラエルは国内・外に困難な諸問題を抱えていますが、私は特に同国における少数派民族であるアラブ人の政治行動を研究しています。ユダヤ人が8割を占め、アラブ−イスラエル紛争の只中にいるイスラエルにおいて、アラブ人少数派は政治的にも経済的にも劣等的な立場にいます。そのようなアラブ人が1970年代から地位の改善を求めて積極的な政治行動を展開し始めたのですが、これを可能にした要因は何かということが目下の研究テーマです。興味深い点は、イスラエル・アラブ人はヨルダン川西岸とガザ地区(いわゆる占領地)にいるパレスチナ・アラブ人と出自を同じくし、パレスチナ国家の成立を支持するにもかかわらず、彼らはイスラエル国民として生きることを選択している点です。将来的には占領地におけるパレスチナ民族運動と国家建設の研究、中東諸国の民族運動・社会運動の比較分析を考えています。
 みなさんには副専攻の講義を通して、ぜひ社会への視野を広げ世界の観方を知る面白さを学んでいただきたいと思います。戦争は悪である、とは誰でも考えられます。国際関係論への興味はここから始まるのかもしれませんが、感情的に戦争に反対するだけでは何ら解決策を出すことはできないのです。対立にどんなメカニズムが隠れているのか、なぜ対立は起こり戦争に発展するのか、などの問いを理論的・実証的に研究することこそが必要な作業であると私は考えます。

(国際関係論専攻博士前期課程1年)

 



  国連職員を目指して・・・ 阿部 悠貴 

 私は2001年3月にドイツ語学科を卒業し、現在は大学院の外国語学研究科国際関係論専攻で、山田高敬助教授のもと、主に国際政治理論を研究しています。修士論文ではコソヴォ紛争へのドイツ連邦軍派兵決定過程を国際政治、国内政治の連関から分析しようと思っています。
 大学院進学を決意したのは国際政治の勉強を続けたかったということに加え、当時は国連職員になることを希望しており、それには修士号が必要だったからです(他に国連職員になるには3年以上の職務経験が問われると思います)。しかし、現在では前者に対する思い入れが強くなったことなどいろいろとありますが、博士課程への進学を考えております。以下、簡単にではありますが、試験、就職、大学院での生活について書かせて頂きます。
 試験は英語、国際関係論に関する論文が出題されますが、これに加えて研究計画書(面接は主にこれに基づいて質問されました)も判定の基準になると思います。英語の試験は翻訳でしたので、私は英語の文章を一定の時間で訳し、その後日本語版と照らし合わせるという作業をやっていました。あとは国際関係論の本を読んでいましたが、大学院の授業ではすぐ専門的な内容の論文を読むことになるので、この時読んだものはその後も非常に役に立ったのを覚えています。また友人と夏休みに集まって勉強しましたが、これは話をしている中で自分に何が欠けているのかがわかったのに加えて、気分転換にもなり効果的だったと思います。研究計画書は主に大学院での研究のテーマを書けばいいのですが、私の場合(後で触れますように)明確な問いやテーマを設定できなかったため、あまりいいできではなかったと思います。
 大学院卒業後の就職に関しては、修士課程終了者では殆どの方が民間企業に就職されますが、かつての私のように国連職員等を目指す方、JETRO(日本貿易振興会)等のシンクタンクに就職される方もいます。博士課程修了者ですと就職先は大学の教員、シンクタンクなどに限定されてしまいます。少子化で大学の数も減っていることや、日本では政治系のシンクタンクが非常に少ないことに加えて、30歳前後の年齢を考えますと就職状況は大変厳しいという話を聞きます。
 大学院での勉強というのは毎回の授業で読んでくる課題というのもありますが、基本的には自分の研究が中心になります。今の段階ですと修士論文の完成がそれに当たります。こうした中で特に痛感するのは自分から疑問を考え出すことがいかに重要であるかということです。たくさんの本を読めばいい論文を書くことができ、資料をまとめさえすればいい評価を受けるという訳ではなく、自分がどのように考え、それをどのようにして解釈していくのかということが問われてきます。従って、自分で問いを導き出す発想力と、それに対する答えを独自の視点から提示する独創性がきわめて大切な要因になると考えます。
 最後に勉強面に関してもそうですが、進路等で考えることがある際には、まず身近な先生に相談されるのが一番いいと思われます。

 (国際関係論専攻博士前期課程1年)