研究会・出張報告(2009年度)

   研究会

日時:2009年7月26日(日)10:00〜17:00
場所:上智大学2-630a号室
福永浩一(上智大学)「ハサン・バンナーの論考に見られる歴史観−初期同胞団におけるイスラーム主義思想の考察」
 コメント:吉川卓郎(立命館大学)
荒井康一(上智大学)「トルコ民族主義者とイスラーム―その予備的考察」
 コメント:北澤義之(京都産業大学)
清水雅子(上智大学)「現代パレスチナの政治社会変動とイスラーム復興主義―イスラーム復興に関する社会現象・思想・運動研究の整理とハマースの事例を中心に―」
 コメント:見市建(岩手県立大学)
横田貴之(日本国際問題研究所)「ハマースの中東和平観」
 コメント:清水学(帝京大学)

概要:
 本年度のテーマである「イスラーム主義とナショナリズム」に沿って、前半では現代の政治運動に影響を与えている1930年代の政治思想史に関する報告、後半では現在のパレスチナ情勢に絡んでハマースについての報告が行われた。
 福永報告は、ハサン・バンナーの著書『昨日と今日の間で』のテキスト分析から、バンナーおよび初期のムスリム同胞団の歴史観が、典型的なサラフィー主義的歴史観を踏襲している一方、後代のサイイド・クトゥブらとは対西洋観に差異があることを確認した。
 荒井報告は、共和国初期の民族主義者であるズィヤ・ギョカルプらが、トルコ・ナショナリズムの理論化においてイスラームを文化の一部や道徳として位置づける一方で、民族主義者として文化を重視する立場からイスラームを否定することもできなかったため、イスラームの位置づけをめぐる相違が、後の民族主義政党の内部における路線対立の要因となっていることを明らかした。
 清水報告は、ハマースが、イスラーム復興主義だけでなくパレスチナ国家というネイションの代表性を主張する主体として登場した背景について、ハマース憲章やハニーヤ首相の演説の分析を行い、イスラーム主義とナショナリズムを結びつけるものとして、「ワタニーヤ概念」を提示して説明した。
 横田報告は、ハマースの中東和平観について、ハマース憲章のテキストに示された理念と実践から分析した上で、中東問題の多面化や関係アクターの多様化とかみ合わない関係アクター間の批判など、世界化するパレスチナ/イスラエル紛争の中で、ハマースの中東和平への影響と展望を描き出すことの困難さを改めて示した。
 いずれの報告とも、分析の対象となった政治組織が、対西洋の観点での各々の立ち位置の主張と、現実の政治的な動員の必要というなかで、時代的な背景や状況の変化に対応しつつ、ナショナリズムの主張とイスラーム主義の主張をいかに取り交ぜるかという苦闘に迫ったものであり、イスラーム主義とナショナリズムの相関についての事例を提示した有意義な報告であった。また、イスラームの位置づけをめぐる相違が、政治組織の路線対立の要因となっている点は、改めて注目すべき指摘であろう。今後の分析の進展に期待したい。
 (石黒大岳・神戸大学大学院国際文化学研究科博士後期課程)